シチュー/若原光彦
俺にはシチューがあるのに
どうしてハンバーガーなんか食っているんだろう
夕日が夕日に焼かれ
木は木に遮られ
声は声によって届かず
闇の中では闇も見えない
体は体ゆえに老い
心は心であるぶん脆い
本心は本心という盾に隠れて
夢は夢と呼べるほど無力だ
ブロッコリー
マッシュルーム
鶏肉
猫背のエビ
ベーコン
刻んだパセリ
コーン
クルトン
鍋の中から皿の上へと
すべては絡まって
おいしいシチューになる
おいしいシチューになる
こんな寒い日は
どうしてもシチューが食べたくなる
魔法のような幸運を求めてた
迷子になってもお菓子の家があるって
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