シチュー/若原光彦
って
ぼくにもプレゼントがある筈だって
帰りたくない
動きたくない
料理をする気力はない
寝るためだけに帰るなら
このまま凍え死んだ方がましだ
その方がいい
俺は何を言っているんだろう
まったく馬鹿みたいだ
早く明日にならないかなあ
早く未来が来ないかなあ!!!
夕日が夕日に焼かれ
木は木に遮られ
声は声によって届かず
闇の中では闇も見えない
体は体ゆえに老い
心は心であるぶん脆い
本心は本心という盾に隠れて
夢は夢と呼べるほど無力だ
人は人を動かしながら生き
暮らしは暮らしに費やされる
言葉は言葉を増やすばかりで
力は力になってはくれない
こんな日は
こんな日はどうしてもシチューが食べたくなる
ぐつぐつと煮えた
あたたかいシチューを
熱いシチューを
また馬鹿が何か言ってるよ!!!
どんな味がするよ!!!
鍋の中から皿の上へと
すべては絡まって
おいしいシチューになる
おいしいシチューになる
戻る 編 削 Point(7)