潜夜一夜物語/蒸発王
 

今宵も
しんしんと
夜が降る

私はゴーグルもつけずに
調度良く降り積もった夜に
深く深く潜る


深淵までたどり着くと

耳元を
口笛のような風が吹きぬけ
目をあげると
壊れた薄い月が
ひかえめな光を纏っていた

蒼い夜空が
ざわざわと落ち着き無く
闇を撒き散らしている
揺れるは
月色に染まる
ススキ畑


私の足元には
無数の額縁が転がっていて
気付けば
私も一つ額縁を持っている
中には月見草の絵が入っていた


頭上の壊れた月が
星の歌う低周波に感動して
少しだけ自壊すると
其の破片が
私の持つ額縁に注ぎ込まれる

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