オイカワ/MOJO
 
水中メガネをつけて潜ってみる。するとさっきまで生物の気配がしなかったことが嘘のように魚が群れている。「なんだ?」と眼を凝らすと、魚類図鑑で見たことのあるオイカワである。青い水中に無数のオイカワがひらひら舞うように泳いでいる。それは以前にTVで見た、人間を寄せ付けぬ秘境の映像のようであった。浅瀬の岩場では雌が産卵していた。岩に付着した卵に婚姻色に染まった雄が精子を撒いている。その辺りは水が白濁するほどであった。私は岸に上がり、急いで湖畔の雑木の根を掘りミミズを探した。餌を確保し、釣り支度を整えて水に胸まで浸かりながら竿を振った。  
 入れ食いといってよかった。海パンに括りつけたビクに二十尾ほど貯
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