オイカワ/MOJO
 
ど貯まると水から上がり、登山ナイフで獲物の鱗とはらわたを取り除き、木の枝に刺してから塩をふって焚き火にくべた。
 魚が焼ける香ばしい匂いが辺りに流れ、いよいよ野趣に満ちてきた。私は良い具合に焼けた一尾にかぶりつく。が……不味い。驚くほどに不味い。苦くて食えたものではない。これではせっかくの山菜の握り飯も台無しである。
 私のささやかなナルティシズムはもろくも打ち砕かれた。
 私はニック・アダムスのようではなかったのである。
 友人たちは焼けた魚には手をつけずに冷ややかな表情を私に向け、カップラーメンを啜っていた。 


                       〈了〉

 注:ニック・アダムス/へミングウェーの書いた短編に「ニック・アダムスシリーズ」と呼ばれる短編群があり、ニック・アダムスはへミングウェーの分身とされている。


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