亜熱帯チャイナタウンにて/MOJO
 
か乗じた金を渡した。多い分は女の自宅までのタクシー代である。
「本当は帰りたかったの」
 女は舌をだして笑った。片言の日本語に愛嬌があってよろしい。女は次の夜もこの部屋に来たい、と申し出たが、私が応えずにいると、それ以上は何も言わずに部屋から出ていった。
 翌朝、少し早めにダイニングに下りてみる。バスが出発するまでまだ一時間以上あるが、気の早い何人かはもうテーブルに座っている。
 昨夜の擬似恋愛の相手を朝食のテーブルに同伴させている剛の者たち。私は女たちの屈託のない笑顔を見て安心する。
 ビュッフェトレイからピンクや黄色の南国の果実を山盛りに皿に盛ってテーブルに戻ろうとしている男と目が合
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