尾崎喜八「山の絵本」を読む/渡邉建志
 
にある。そう思ってヴラマンクは立ち去る。むしろ心に苦痛を満たしてその場を逃れる。
 同じような心の苦さを味わいながら、(略)むしろうつむいて僕は通る。 p.53

この部分に私はとても胸打たれる。現代の貨幣制度、分業制度、資本主義、というものは、やはり理性では分かっていても、身体では納得できないものなのである。しかし、そういいながらもそんなことは忘れて私は都会で遊興に耽っている。山中で恥じるヴラマンクに、恥じる尾崎喜八に、ひそかに私は恥じる。このなんともいえない気持ちを、私は持ち続けていたい。「自分の食う麦を自分で作らない己れを恥じる。都合のいい口実は幾らでもあるあろう。だがどんな言葉も自
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