どこにでもある話 1/いとう
 
それまで
会うのも連絡を取るのもやめましょう」
一方的な宣言で「ください」もないが
でもそんなのもどこにでもある話
少なくともここまでは

彼女の宣言を受けたその日から彼はストーカーになった
授業には出ず
彼女の家と彼女の大学と彼女のバイト先と再び彼女の家と
1日中彼女の後をつけて(もちろん彼女に気づかれないように)
彼女の部屋に明かりが灯ると
家に帰る毎日
でも彼にはストーカーとしての意識はまったくない
なぜなら彼の行動の根拠は
彼女の私生活を暴くためではなく
自分と会わないあいだ
彼女が何事もなく無事でいられるように願ったため
ただそれだけのための毎日
当時
[次のページ]
戻る   Point(7)