深海魚/芳賀梨花子
 
て、通り抜けるだけでは、失敬なので
いつもダウンジャケットのポケットに入れてある五円玉を
そして、拍手をぽんと打って、ガラガラして
真冬なら、いつも氷が張っている
鉢にたまった天水を確認する
今日も、また、そこにあるのだ、と
わたしもここにいるのだ、と、これもまた漠然と
だけど感謝することも忘れずに歩き出す
そういえば、光は届かないけれど
決して凍らない水が、そこにはあるのだな
とか思ったりもして、墓地を抜けて、円覚寺の境内を歩く
何も悟れずにいる自分、いや、多分
悟りたいなんて思っちゃいないのだ
あの目のない魚たちは、どうなのだろうか、と
少し考えてみたりもする

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