深海魚/芳賀梨花子
 

図鑑の中でしか見たことがないのに、と
苦笑いしたり、しながら
時には浄智寺まで
浄智寺の空気は、なぜか透明に感じて、いつも
日差しがわたしの体内へ入り込んでくるような気がする
わたしは、あの魚たちが知らない感覚のなかで生きているんだ
お天気がすごく良ければ、そのまま源氏山に登り
晒された樹木の生命線が
道すがら踏み荒らされているのを見ると
まるで、わたしの血管のようにかんじて
踏みつけられるたびに悲鳴を上げてしまう
でも、それでも、歩き続けていると
開かれた視界から、運が良ければ三浦半島の
そのまた向こうの房総半島がかさなりあって
雲は、ありきたりに行く当てもなく
きっと、流れる水も
ほとけさまの近くに住んで
ほとけさまを敬わないから
でもなく、普通に、少しだけ不幸で
でも、本当は知っている
自分は、そんなに不幸じゃないってこと
そんな、ずるくて、でも、よわっちい自分は
どこにももどれないってことも







戻る   Point(8)