大福餅秘話/大覚アキラ
ここまで来て帰るわけにもいかない。店に怒鳴り込んでこられたら、そのほうがやっかいだ。ぼくは意を決して呼び鈴を押した。
ピンポ〜ン
やけに間延びしたチャイムの音が場違いな能天気さで響く。
沈黙。
突然、ドアが開かれ、若い男が顔を出した。紫色のサマーニットを着たその男は、低い声で「なんや?」と言った。迂闊なことを口にすると刺されかねないような危険な雰囲気にビビりながらも、ビデオデッキの配達に来た旨を伝えると、中から「あ〜、ワシが呼んだんや。入れたってんか」というダミ声が聞こえてきた。
恐る恐る中に入ると、そこはテレビドラマに出てくる組事務所そのままだった。部屋の
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)