祭りのあと/大覚アキラ
 

 「夏祭りだよ」と、皿を洗う手を止めることもなく母が呟いた。

 歩いて五分足らずの距離にある神社の境内には、こんな田舎の夏祭りにしては結構な数の屋台が出ていた。だが、時計はすでに九時を回っており、ほとんどの屋台がそろそろ店じまいの準備に取りかかっている。
「おい……水野? 水野か?」呼びとめる声に振り向くと、見覚えのある顔があった。
「やっぱり水野じゃないか。久しぶりだなァ、おい!」
「……多田か! びっくりさせんなよ」
 屈託のない笑顔は高校の頃のままだった。多田の傍らには今年小学校に入学したという娘がいた。

 ラムネを買って、どちらからともなく境内の植え込みの縁に腰掛ける
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