祭りのあと/大覚アキラ
 
ける。多田の娘は、自分の頭よりも大きい綿アメを買ってもらい嬉しそうにはしゃいでいる。
「独立してデザイン事務所やってるんだってな。景気はどうだよ? 羽振り良さそうだな」
 多田がニヤっと笑う。
「潰れたよ。借金だらけで、こっちに逃げてきたってわけさ」
「そうか……潰れちまったのか」
「お前は? どうなんだ、調子は」
「おれも最悪だよ。仕事は思うようにいかないし、おまけに女房は男作って逃げちまうしさ」
 苦笑する多田の表情に疲れがにじんでいた。
「お互い、大変だな」
 微妙な沈黙が流れた。
 半分以上の屋台はもう片付けを終え、引き上げようとしている。
「祭りのあとは、寂しくって嫌だな」多田がそう呟き、おれはただぼんやりと頷くだけだった。

 それ以上話すこともなくなったおれたちは、「じゃ、またな」なんていう適当な言葉を交わして別れた。
 娘の手を引いて歩いていく多田の後姿を見送りながら、おれは気の抜けたラムネを飲み干した。
 カラン、とガラス玉が鳴った。
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