“かわいい匂い”の正体/大覚アキラ
認しているのではないだろう
か。親と子には、どんなかたちであれ必ず別れなければならない時
がくる。“わたし”は“泣いているこども”を抱き締めながら、や
がて訪れる訣別をぼんやりと予感しているのだろう。
そうだ、“泣いている”から“かわいい”のだ。それは“わたし”
から確実に一歩一歩遠ざかりつつある者が垣間見せる、か弱さであ
り脆さだ。そして、そこに微かに残る“わたし”の一部分だった愛
おしい痕跡。
そうだ、それこそが“かわいい匂い”の正体だ。“わたし”と“泣
いているこども”は、いわばフェロモンで会話しているのだ。“頭
に鼻をくっつけて/くんくん嗅ぐ”母の胸に顔を埋めて
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