“かわいい匂い”の正体/大覚アキラ
めて、“泣いて
いるこども”もまた母の匂いを嗅いでいるのだ。そこには、濃密な
母子のコミュニケーションがある。父親には立ち入ることのできな
い聖域であるようにさえ思える。
たぶん男は永遠に“かわいい匂い”を嗅ぐことはできない。できた
ような気がしても、それは飽くまでも気がしただけだ。なぜなら男
は(父親は)ここまで強力な一体感を“こども”と共有しえないか
らだ。科学が進歩して生殖に革命が起こり、男が妊娠したり出産し
たりすることが可能になれば、男にも“かわいい匂い”を嗅ぐこと
ができる日が来るかもしれない。これは、母にしか描けない詩だ。
そう思って読み返してみると、なにやら嫉妬を感じる。
今度、娘が泣いているときに、匂いを嗅いでみようと思った。
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