五十三回目の夏に/狸亭
 
ごくごく自然に顔を合わせ
思い描くたのしい偕老同穴

ばら色の空想の日々二ヵ月
やっと勤め帰りの男を誘い
焼き鳥屋で飲みながら観察
ぼくは酔うほどに狂おしい

それはそれは不思議でした
だってこんなことは初めて
都営新宿線神保町駅でした
小柄な目の細い奇妙な相手

いきなり話かけてきて毎朝
同じ時間に挨拶する変な男
職場や我が家でも語りぐさ
淋しがりやの繰り返す妄語

「死にたい」などと口走る
身の上話でも聞いてみるか
暇をみつけてボルガに入る
どうも彼の日常は四面楚歌

五〇人ものOLにかこまれ
煙草も吸えない職場にいて
話す仲間もいない明け暮れ
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