表現の動機について/由比良 倖
 
が多いですが、ステージ上のミュージシャンが、僕ひとりに向けて歌っている、と感じることはありません。ライブ映像を見ていてもそうです。

 ひとりでじっくりと作品と向かい合う時、例えば静かに活字を読む時、ヘッドホンで音楽を聴く時、何故だか僕は、作者がまさにこの僕個人に向けて、願いを込めてこの言葉や音楽を送ってくれたのだ、と感じることがあるのです。作者のことをまるで、親友であるかのように、腹を割って話の出来るかけがえのない人のように感じるのです。例えば僕は中也について、「中也はね……」と、まるで彼を今生きている友人であるかのように人に喋っていて、そういう自分に驚くことがあります。そして、僕は彼が死ん
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