アパート(修正版)/板谷みきょう
家具売り場で触れたラグの手触りだけが、
床の上でひそやかに冷えていた。
思い出と呼べるほどの、時間は短いのに、
思い出になりそこねた物ばかりが、積み重なっていく。
その積み重なり増えたぶん、代わりにあなたの時を刻んだ。
ある日、荷物が届いた。
送り状の筆跡にあなたの名前があった。
段ボールを開けると、
家具売り場でわたしが指先でなぞった食器棚が、
深い眠りから醒めるように姿を現した。
わたしが
「これも、欲しいね」と言ったとき、
あなたは
「ぼくらには、まだ贅沢だよ」と笑った。
あれが本心ではなかったと、その時よ
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