アパート(修正版)/板谷みきょう
時ようやく知った。
あなたは、未来を諦めていた訳じゃなかったんだ。
未来を整えていたのは、あなたのほうだった。
床に膝をつくと、木目が涙でにじんだ。
わたしは、あなたの優しさの終わり方を知らなかった。
洗面所には、脱ぎ捨てられた片方の靴下が置かれたままだった。
洗えばいいのに、洗えなかった。
繊維に宿ったあなたの匂いが、
水に溶けて消えてしまうのが怖かった。
けれど――
その匂いだけを抱きしめて生きることは、
あなたが望んだ未来ではないと、
ゆっくり思えるようになった。
あなたが最後にわたしに贈ってくれた「
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