アパート(修正版)/板谷みきょう
 
ふたりで暮らすはずだった部屋は、
 最初から何かを待っているように静かだった。

 地下鉄の線路が近く、
 夜になると鉄の響きは、くぐもって届いた。

 その音が窓を震わせるたびに、
 あなたが「便利だよ」と笑った横顔が、
 薄い光の膜のように、部屋の空間に残っていった。

 家賃は三万。台所と風呂があれば十分。
そうふたりで話し合っていた。

 その「ふたり」という単位は、まだ未来を照らす灯りのように
重たく、温かかった頃。

 家具売り場では、
 わたしの歩く速さにあなたが自然と合わせた。

 新品のソファに腰を下ろしたとき、
 並んだ膝が触れたあの一瞬
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