すすき野原で見た狐の話/板谷みきょう
をそっと胸の奥にしまっていました。
そのつややかな光と精緻な細工が、狐の心に一つの願いを呼び覚まします。
――この簪に似合う姿になれたなら、私も美しくなれるだろうか。
男は影のようにしゃがみ込み、息を殺して見守ります。
最初は狐をただの酒の肴として眺めるつもりでした。
しかし、汗で毛を湿らせ、孤独に努力を続ける狐の姿は、
男の胸の奥を静かに熱くさせるのでした。
木の葉一枚、宙返りの角度、月の光のかすかな加減…
その一つ一つが、命をかけた真剣勝負のように見え、
男の心には言葉にならぬ尊敬の念が深く刺さります。
夜が深まり、空に星がこぼれ落ちる頃、
狐はとうとう化ける
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