狐の願いと人魚の唄(To celebrate discharge)/板谷みきょう
 
という真実を胸に抱えたまま、
偽りの姿で人魚の純粋に触れることは、あまりにも残酷に思えたのです。
与一にできたのは、ほんのわずかな微笑みを返すことだけ。
その沈黙こそが、与一の想いのすべてでありました。

告げれば終わる想い。
告げなければ守れる純粋。

母狐がたどった道の続きを、今度は自分が歩くのだと、
与一は静かに考え定めました。

?. 過去の光の孤独な叫び

冷たい街道の途中で、与一はふと足を止め、
何度も後ろを振り返りました。
幼い日の恐れ、言えなかった想い、母狐の灯の残影・・・
すべてが雪の向こうに淡く揺れ、
凍った泉に映る月のようにたゆたっています。
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