沼の守り火(河童三郎の物語)/板谷みきょう
 
……おら、河童の三郎だ……。どうか、この村のぬらくら川を、もう氾濫させねぇようにしてくれねぇか……」

滝壺の水面が、雷のように波打ち、巨大な影が姿を現した。

「命を差し出す覚悟はあるか、河童三郎。お前一匹の命で、この地のあまたの悪運を断ち切れると、本気で思っているのか」

龍神の声は、山々を揺るがすように低く、威圧的であった。三郎は、恐怖で身がすくんだが、沼と爺婆の顔を思い出し、決死の覚悟で答えたとさ。

「おら……おらの全てを、かけるだ。この沼が、干上がっちまうのは、寂しすぎるだ。どうか、この命を、川の鎮めに使ってください。さすれば、集落は沈まなくて済むだべか」

龍神は
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