打弦幻聴録/ただのみきや
野に身を起こす
それは妙なるうねりを宿した
直立した残骸だ
白紙にぬっくと立ち上がり
炎をまとった卒塔婆が
その文字が軽妙に踊り出す
書き手が封じたものを
読み手が解き放つ
ああ直立した残骸よ
妙なるうねりを宿すもの
夏のねぐるしさから逃れ
女の狂が紅葉する
滝のように立つ
男の胸はすでに背中だった
曇ったガラスに書いた文字の向こう
日なたの枯草みたいな笑顔が
瞬きするたび遠のいて
耳に縫い付けた遺骨のようで
死んだ子犬でも抱いているようで
あなたのこころの裏口を開けたようで
わたしたちは俯瞰しすぎたのだ
互いに本でも読むように
得るためになにを
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