全行引用による自伝詩。 02/田中宏輔2
 
 こんなに見つめあったりするのは、なにか気脈の通じる人間どうしだけができることだ。
(ノサック『ドロテーア』神品芳夫訳)

(…)わたしの手はわたしの視線を追って、できるだけの早さでカンバス上を走りまわるのだった。ところが、そのわたしの視線は、また、現実に見えないものまで求めているのだった。つまり、そこにあるものではなく、かつてそこにあった、そしていつかはそうなるだろうという対象の姿を求めるのである。
(ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』10、井上一夫訳)

 私は、ときたま穀倉とか台所とか人目につかない所とかで見かけることのある、その用途はもはやだれにも説明できないような、そういっ
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