全行引用による自伝詩。 02/田中宏輔2
家で勉強していると、時間は雨の日のようにのろのろ過ぎていく。母親に期待をかけられている彼は、最近父親に似てきた。アヴィニョンの叔母さんに手紙を書かなくては。お金を持たないそんな彼のためにパリの街々とセーヌ河がある。(…)一袋十フランのフライド・ポテト、四つに折り畳んだポルノ雑誌、空のポケットのような寂しさ、幸運な出会い。町は未知の事物で埋めつくされている。風や町にも似た気易さと貪欲な好奇心に駆られて彼はそれらの事物を熱愛する。
(コルタサル『悪魔の涎』木村榮一訳)
(…)悪は──何世紀にもわたって記録されてきたのとは異なり──混沌(こんとん)の道具などではないのだ。創造こそが混沌の力なのだ
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