全行引用による自伝詩。 02/田中宏輔2
 
テオール(気象)』第七章、榊原晃三・南條郁子訳)

それは私の顔だ。たびたびきょうのように、むだに終わった日に、私はじっと自分の顔をながめて時を過ごす。私にはこの顔がちっともわからない。他人の顔は一つの意味を持っているが、私の顔にはそれがない。私の顔が美しいか醜いかも、決めることができない。醜いと言われたことがあるから、そうだろうと思う。しかしそう言われても腹立たしくはない。じつを言うと、人が土くれや岩の塊りなどを美しいとか醜いとか言うように、そういう種類の形容詞を私の顔に与えうるということが、私を驚かせるのである。
(サルトル『嘔吐』白井浩司訳)

人々の顔を眺めるのは彼にとって楽しい
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