全行引用による自伝詩。 02/田中宏輔2
 
初の弓矢を再度入手できないのは辛い悲劇の一つである。
(E・V・ルーカス『鹿苑』行方昭夫訳)

 かれは自分が冷水の入ったコップになった気がした。何たる気ちがいじみた考えだ! コップの外側の水滴みたいに冷たい汗が噴き出していた。身体の中は冷たくて仕方がない! かれは腕をくみ、慄えはじめた。やっと指先が毛布をまさぐり、それをつかむと身体に引っぱり上げた。
(フィリップ・K・ディック&ロジャー・ゼラズニイ『怒りの神』5、仁賀克雄訳)

(…)この世で一番不幸な人の中に、過去において自分が蒙った被害を忘れられない人がいる。また、自分が他人に与えた危害を忘れられないので不幸になっている人もいる
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