全行引用による自伝詩。 02/田中宏輔2
いる。実際、人間というのは、記憶しておきたいことは忘れ、忘れたいことは覚えているように生まれ付いているのだ。
(ロバート・リンド『忘れる技術』行方昭夫訳)
鉄道での旅行者の遺失物が今ロンドンの主要駅の一つで販売されている。その品物のリストが発表され、それを見た多くの人が人間の忘れっぽさに驚いている。だが、件の統計上の数字が入手できれば、忘れる客がそんなに多数だということになるかどうか、私は疑問に思う。実は、私が驚くのは人の記憶力がいい加減だということより、その素晴らしさである。現代人は電話番号まで記憶しているではないか。友人の住所も覚えている。ビンテージワインの年号も覚えている。(…)
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