全行引用による自伝詩。 02/田中宏輔2
見る機会が殆ど無くてよかったと思った。特に、まだらのある鹿は一度も見なかった。今日の驚きと歓喜の感動を新鮮に保つため、今後しばらく又鹿を見るのは、やめておこうと思う。
(E・V・ルーカス『鹿苑』行方昭夫訳)
私の思い出の鹿苑を数十年振りに訪ねた後、一マイル半歩いて市場のある町に来た。ここで昔最初の弓矢を買ってもらった小さな玩具とキャンデーの店を探してみたが無駄だった。どこにあったか覚えていたのだが、店に代って新しい大きな建物が立っていた。弓矢を買ってくれたのは独り者の訪問客の一人だった。こういう人は、僅かな金額で、子供の世界に輝きを与え、この世を天国に変える魔力を持っているものだ。最初の
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