全行引用による自伝詩。 02/田中宏輔2
がわれわれの考えをくつがえしてしまうことだってあり得るのだ。
(アン・ビーティ『広い外の世界』道下匡子訳)
(…)しかし、先に述べたように、変わったのは私だけだった。私以外はすべてが昔のままだった。歩道、ライムの木の街路、未だに始終修理が必要な樫の囲い、昔は怖かったのに今はただ薄汚いだけの大きな屋敷、ヨーロッパアカマツの傍らの教会、道の赤い砂、鉄板に豚の浮彫のある飾りが目立つので記憶している、教会の隣の一風変わった家──みな同じだ。だが、何にもまして、鹿が昔と同じなのが印象的だ。昔と同じく妖精のようで、見ていると心が躍る。昔と同じく、神秘的な動き方をする。私が、子供の時以来今日まで鹿を見る
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