全行引用による自伝詩。 02/田中宏輔2
 
とは封をすればいいだけになっていたもうひとつのボール箱の上に、彼はガムテープを貼った。彼は側面まで伸ばしたテープの端を親指でしっかり押しつけると、残りのロールを手でちぎった。
「あなたのしたのはそれだけ?」と彼女は言った。
「そのときはね」と彼は言った。
「別のときはどうしたって言うの?」
 彼はにやりと笑った。「まさか君、僕が十代のときにしたことを妬いてるんじゃないだろうね」
 もちろん彼女は嫉妬していた──なぜなら彼女は、人も物事も記憶のなかで完全に忘れ去られることはないと知っていたから。いくつかの過去の出来事を思い起こしてみるとき、われわれはその鮮明さに驚いてしまう。過去の記憶がわ
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