それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
て置いてない。ズブロッカの壜をみつけてレジにいく。そのとき、紫色のダウンが見えた。まちがいない。会計を済ませ、そのあとを追った。どうか、かの女が気づいてくれますようにと願いながら、近づく。ぼくはかの女の声を待っていたんだ。かの女が通りを渡り、公園に入る。そのままぼくも着いていく。かの女はふりむかない。ふりむいたところで、かの女はどうおもうだろうか。いままでにぼくをふった女たちをおもい浮かべた。くだらないことだ。かの女はふりむかない。ぼくはベンチに坐って酒をあけた。かの女はふりむかない。やがてそのうしろ姿も見えなくなって、気づくとじぶんでも知らないうちに泣いてた。
そのあと、ぼくは丘をくだって
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