それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
ま電話したるわ。
やつは臀のポケットから電話をだしてすぐにかけた。幽かに女の声がしてる。ぼくはしばらく我慢することにして、酒壜をとった。何度か、それを呷って、深い呼吸を繰り返す。もう泥酔もいいところにちがいない。やがて電話は終わって、やつが怪しい笑みを浮かべてぼくを見た。
すぐ来るそうやで。
そうか。
それで、そいつは美人か?
ああ、きれいやで。
やがて階段を昇る音がした。不定形の女が室に侵入して来る。定型に収めるにはどうしたらいいのか?――ぼくは慌てて酒壜を、そいつの顔にたたき込む。悲鳴がする。そのまんま立ちあがって、廊下まででると、階段を駈け降りた。やつが追
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