それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
 
れかの室にいた。ぼくは起きあがってあたりを見る。
   やっと、気ぃついたか?
 ずいぶんまえに見たことのある顔だった。できれば見たくない顔だった。おそろしく退屈で、冗漫で、怠惰で、笑えもしないし、泣けもしない、もはや怒りの湧いて来ない顔だ。感情らしいものを見いだすのも億劫になる顔。そして鼻。
   おれのこと、懐いだしたか?
 ぼくはいった。
  いいや、おまえなんか知らない。
   ビールがまだあるでえ。
  いいや、こんなところにはいたくないよ。
   まあ、そういうなや、ほら、まえにいった子ぉ、連れてくるから。
  わかったよ、さっさと連れて来いよ。
   ああ、いま電
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