それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
 
が立ち入れないような聖域みたいな気がする。やがてかの女は女子用の休憩室に入り、40男は去って、ぼくはひとりになった。『裏切りの国』というイギリスの冒険小説を読みながら、時間が経つのを、そしてまたかの女と仕事することをおもった。時間になり、倉庫にもどって、残りの伝票を見た。きょうも残業だ。半分も終わっちゃいない。やがてみんながもどって仕事がはじまった。主任が笑みを浮かべていう、
    なに喰った?
  スパゲッティです。
    おまえ、よう喰うなぁ。
 たしかにそうだった。ぼくはすっかりデブだった。23歳になるまでのこの1年、太りすぎてしまった。主任はぼくの腹を叩き、やがて気味のわるい笑
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