それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
 
だって?
   うん、そう。
  お疲れさまだったね。
ほんと、しんどかった。
 ところで――といってぼくは鞄から作品をとりだした。――こんど、本を出すんだけど、よかったら読んでよ。
   えー、凄いね。
 咽がからからで声がでずらい。もっとなにかいいたいことがあるはずなのにいえなかった。かの女はぼくに手をふって、
   じゃあ、またね。
 たしかにそういった。そんなこと、あるはずもないのに。ぼくはかの女が林道を下って消えてゆくのを確かめ、ジョルノのエンジンをかけた。もう2月だ。また単調で、退屈な仕事が待ってる。ぼくから人間らしさを奪う仕事が待ってるんだ。ぼくはまた酒を
[次のページ]
戻る   Point(2)