それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
業についていけへんのやろ。
そのときになってようやくぼくはかの女に惚れてるってことがわかった。かの女のみじかい髪、白い肌、愁いを含んだまなざし――もちろん、こんな表現は陳腐だし、仮に読者がいたら眼を背けてしまうだろう。でも、たえられずにぼくは倉庫の奥でしばらくのあいだ、かの女へのおもいをぶちまけてた。だれもいないところで。かの女はあした来るのか、来ないのか。そうもおもった。それはまるで毛布のなかの両手みたいで、覆い隠されたおもいだ。
けっきょく、かの女は来た。雑談をした。かの女はぼくとおなじ歳で、おなじ町に棲んでるのがわかった。そしてどういうわけか、かの女とぼくは腕相撲をした。主任にやらさ
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