それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
 
。ホテルで見失ったかの女がどうしてるのかをおもうとき、いやな汗を掻いてしまう。それでも酔いがまわり、そんなことは忘れる。妹たちの声が階段や廊下に響く。かの女たちは自由だ。ぼくはといえば父の使用人みたいなものだ。
 ふかく酔わないうちに手淫を済ませた。ぼくはどうやってでも、早く世にでなければならなかった。だって仕事のうだつはあがらないし、またじぶんから辞めてしまうだろう。いまのところはかの女の存在がつっかえ棒になってるけど、かの女がいなくなればもうあそこで働いていられないだろう。このまま歳をとりたくはない。いますぐにでもデビューして、かつてぼくを蔑んだやつら、からかったやつらを見返したかった。さも
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