それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
 
なんてほざくんだ?
  おれはわざわざこんなところまで来て、どうして知らないやつの愚痴を聞くんだ?
   おまえはおれを知っとう!
 「いいや、おまえなんか知らない」――そのとき、やつはこっちをむいた、上半身をひねり、それから下半身も向きを変えた。焦ったおもづらでぼくを見つめ、すがりつくようにこっちに乗りだした。
   ちょっと待ってくれや、
   少しでいいから懐いだしてくれへんか。
  無理だよ。
  お互い遠い過去なんだ。
  憶えてていいことじゃない。
  むかし、おれたちのあいだでなにかがあったのかも知れない。
  でもそれは終わったことだ、つまりはジョン・ウェインが
[次のページ]
戻る   Point(2)