それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
るのか。もう7時も過ぎているのに、だれもいない。なにか、正体のわからない空気が漂ってる。
おまえの家族はどこだ?
でかけてる。
どこに?
夜勤やで。
やつはにやりと笑い、一瞬腰を浮かすと、うしろむきのまんまおなじところへ坐った。ぼくはかれの後頭部にむかって話をするはめになってしまった。いったい、どういうつもりだ。
なるほど。――それでつまみはないのか?
冷蔵庫にシメサバがあるわ。
とっととだしな。
おれに命令すんなや!
それでもやつはシメサバのパックをだしてきて、皿に盛った。おれは指で切り身を摘まんで喰いながら酒を呑んだ。いまのところ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)