それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
 
るのか。もう7時も過ぎているのに、だれもいない。なにか、正体のわからない空気が漂ってる。
  おまえの家族はどこだ?
   でかけてる。
  どこに?
   夜勤やで。
 やつはにやりと笑い、一瞬腰を浮かすと、うしろむきのまんまおなじところへ坐った。ぼくはかれの後頭部にむかって話をするはめになってしまった。いったい、どういうつもりだ。
  なるほど。――それでつまみはないのか?
   冷蔵庫にシメサバがあるわ。
  とっととだしな。
   おれに命令すんなや!
 それでもやつはシメサバのパックをだしてきて、皿に盛った。おれは指で切り身を摘まんで喰いながら酒を呑んだ。いまのところ
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