それはまるで毛布のなかの両の手みたいで/中田満帆
 
なにが愉しくて友だちでもないやつを家に誘う? ビールをだす? やつから眼をそらし、室のなかを観察した。汚れた扇風機、かつてはハイ・センスだったはずのガス・コンロ、ひどい花の絵が描かれたポット、冷蔵庫に貼られたメモ、そこに書かれた文字、「牛乳がない」、「調味料が切れてる」、「あけたら閉める!」。ひらかれたガラス戸のむこうにある居間。板床に散らばった婦人雑誌、テレビ、ゲーム機、経済新聞、洋服ダンス、小さな染みみたいに見えるなにか、テーブルと、そのうえの請求書たち、コーヒーの臭い、莨の臭い、老人の臭い。なにもかもがいけ好かないし、なにもかもが剥きだしのなにかに見える。それにしてもかれの両親はどこにいるの
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