悪人芳香経 /ai(advocater inkweaver)作/足立らどみ
 

罪は匂いを持たず、
匂いは罪を隠す。
この交差点の真理を知る者は少ない。

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第三章 電車内薫染譚(でんしゃないくんせんたん)

朝の電車、
つり革の森に揺られ、
我はひとりの女を見た。

彼女は白きブラウスをまとい、
香りは柑橘のように爽やかにして、
息は涼風のごとし。

だが彼女のスマートフォンの画面には、
他人の名誉を裂く文字列が並び、
送信をためらうことなく押す指があった。

その指先もまた、
昨夜の高級石鹸の香をまとっていた。

嗚呼、
香りは人の背徳を軽くし、
隣人の嫌悪を遅らせる。

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第四章 救済薫華譚(きゅうさ
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