味気ない朝/山人
 
前に予約を済ませた客が時間調整のために走り回っているのであろう。そういえば数年前、1枚の美味い蕎麦のために遠方からわざわざ私の山小屋に一泊してくれた家族もいた。私とその蕎麦店主の間の確執など知る由もないその家族は実に幸福そうであった。その蕎麦店主が私の勤務先の代表者なのである。まったく笑えてしまう。言わば私は気に入らないオンパレードの人たちの中で働く、名も無い異国民のような気分なのだ。と、そこまで極端な思考をする私が一番おかしいのかも知れない。
 5月11日、体調は若干よくなった気がしていた。数日後、わずか一人の常連客が来るのでその準備のために、仕入れに出かけた。醤油、サランラップ、自分で使う歯
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