耳の奥の小さな灯り──聴こえないはずのものがふと灯る、感覚をこめて……/大町綾音
と近くなるからだ。光の届かないところで、人はようやく自分自身と出会う。そして、そのときに必要なのは、言葉ではない。言葉がうまく響かない時間帯が、確かにある。そんなとき、音だけがそっと手を差し伸べてくれる。
たとえば、坂本龍一の『aqua』。静かに波紋のように広がるピアノの旋律は、夜の部屋の空気をすこしだけ冷やして、透明にしてくれる。ひとつひとつの音が、水滴のように静けさへと沈んでいき、時間の流れさえ忘れさせる。これは「語られない言葉」のかたち。内なる祈りがそのまま音になったような、ほとんど無音に近い「やさしさ」がある。
スロウダイヴの『Dagger』は、声が風に溶けていくような曲だ
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