耳の奥の小さな灯り──聴こえないはずのものがふと灯る、感覚をこめて……/大町綾音
 
曲だ。ヴォーカルの輪郭はほとんど失われ、言葉が霧のなかに消えていく。けれど、その不確かさが逆に、心の深部に触れてくる。ギターの反響は、世界の端から端までを揺らしているようでもあり、自分自身の内部にだけ響いているようでもある。うまく泣けないとき、この曲は、涙の代わりになってくれる。

 シガー・ロスの『Samskeyti』は、反復されるピアノと微細な残響で、ほとんど「時の静止」を感じさせる。誰かが呼吸しているようでいて、誰もいない空間──それでも暖かい。灯りを落とした部屋で、ソファに座り、遠くの空を思う。そんな夜に、この曲は「ただそばにいる」という在り方そのものになる。説明も慰めもいらない。ただ
[次のページ]
戻る   Point(1)