海の底にて/由比良 倖
)くたびれたオレンジ色のソファまで歩いていって、ぐったりと横になった。目を瞑って、頭の中に複素数のグラフを描いた。ニュートンの考えは大したものだけど、物理的な真実は、うつろな頭を慰めてはくれない。
前に真由が言ったこと……「私たちには、例えば波しか見えない。音にしても光にしても、観測できるのは世界の波打ち際に過ぎないの。そして世界の全てとしての海はね、それは心の中にしかないものなの。それはとてもとても深くて、そして私たちひとりひとりは、本当は海の全てなの。いい? もし本当のことを見ようとするなら、どんなに目を凝らしても駄目。ただ感じるままに感じるしかなくて……、そして本当にいい本には、観察され
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