海の底にて/由比良 倖
 
れはとても美しいこと。そう思わない? それこそ、そう呼べるなら『神さま』だと思わない?」
 そう言って、真由は本の山の頂に危なっかしく置かれていたミネラルウォーターを手にとって、ゆっくりと飲んだ。

 昼、僕が台所で煙草を吸いながらラップトップに向かって書き物をしていると、本の世界から手ぶらで出てきた真由が、僕のすぐ後ろに立って何かを言った。僕はヘッドホンをしていたので、よく聞こえなくて「何?」と聞き返したけれど、彼女は「何でもない」と言って去って行った。僕は彼女のことを書いていたのだけど、急に気乗りしなくなって、台所の隅に置いてある(前は書斎にあったけれど、本に居場所を取られてしまった)く
[次のページ]
戻る   Point(4)