海の底にて/由比良 倖
真由が買ってくる本の殆どは日本語か英語で書かれているのだけど、ときにはフランス語やドイツ語や中国語の本を買ってくることもあって、「読めるの?」と聞くと、「読めない。でもいいの」と真由は答える。
「ねえ、死んだら何もなくなるのよ。死とは私たちを生あるものと感じさせる、不思議な前提なの。死があるから、出会いがある。それってとても」
と急に真由は言葉を切って、毛布の座椅子の調子を試すみたいに少し身をよじってから、ふと笑って、僕を見上げ
「とても美しいと思わない? 私は神さまには出会わない。神さまが何かなら、それとも誰かなら、私は神さまになんか会いたくない。でもあたしはあなたに出会った。それは
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