詩小説『雨の日の猫は眠りたい』その1。/たま
しかなくて、雄山と呼ばれるその山は
二十年に一度噴火するという。
三日目の朝、火の山峠へとつづく林道を次郎さんと
歩く。平成十二年の噴火で白い骨と化したシダジイ
の原生林が皐月の空に蒼く蘇る。幾多の罪人がこの
峠を越えただろうか。右も左も、西も東もなくて、
さらに、今日という日も、明日も見つからないとし
たら、その昔、この島にひとが流された理由もわか
る気がする。
「流されたんだよね、俺はさ」そんな冗談がよく似
合う次郎さんだったけれど、ほんとうに次郎さんが
流されたとしたら、次郎さんはどんな罪を犯したの
だろうか。戦争を知らない時代に生きて、償うすべ
のないささやか
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